「返報性の原理」の応用として、「ドア・イン・ザ・フェイス」というテクニックがあります。
日本語では、「譲歩的要請法」と訳されたりしています。
また、ロバート・B・チャルディーニ氏の著書『影響力の武器』のなかでは、「拒否したら譲歩法」または、「拒否されたら譲歩法」などと訳されています。
「ドア・イン・ザ・フェイス」の語源は、『shut the door in the face(門前払いする)』という、「訪問販売員とお客のドア越しのやり取りを表したフレーズ」に由来すると言われています。
似たような用語で、「フット・イン・ザ・ドア」というテクニックもあります。
今回は、「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」についての紹介になります。
ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック とは?
ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック
「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」とは、
のことです。
返報性の応用
「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」は、「返報性の原理(法則)」を基盤として、それを応用(悪用?)したテクニックです。
譲歩の返報性
人が、誰かに恩義を受けたままでいることの「心理的負担」は、思いのほか大きいものです。
そのため、私たちは、しばしば、その心理的負担から開放されたいという思いから「お返しをしなくては!」という、強い心理が働きます。
この心理的作用を利用(悪用?)したのが「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」です。
つまり、
「そちらが譲歩してくれたのだから、そのお返しとして、こちらも譲歩をしなくては!」
と感じさせる、「譲歩の返報性」ともいうべき力が働くことを、利用したテクニックです。
名称の由来
「ドア・イン・ザ・フェイス」の名称は、「shut the door in the face(門前払いする)」というフレーズに由来します。
訪問先で販売員が、ひとまず相手に拒否させるために、「ドアが開いたら、いきなり顔を突っ込んでしまう」ということに由来して、このような名称になりました。
ちなみに、ドアが開いたら、「顔」ではなく、とりあえず「足」を突っ込んでしまえ!というのが、「フット・イン・ザ・ドア」というテクニックです。
知覚のコントラスト
「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」は、「返報性の原理(法則)」を応用したものですが、じつは、もう一つ別の心理的作用も同時に利用しています。
それは、「コントラストの原理(知覚のコントラスト効果)」です。
はじめに大きな要求を出して、それが拒否されたら、それよりも小さな要求を出す「ドア・イン・ザ・フェイス」のテクニックは、同時に「知覚のコントラスト効果」も働くことになります。
つまり、
譲歩の返報性 ☓ 知覚のコントラスト効果
「譲歩の返報性」☓ 「知覚のコントラスト効果」を、簡単な例で説明してみます。
たとえば、「5万円貸して欲しい」とお願いしたい場合、
それも断られたら、「3万円でもいいから貸して欲しい」と譲歩すれば、さらに確率は高くなります。
この場合では、はじめから「5万円貸して欲しい」とお願いしないほうが、効果的なのです。
すでに説明したように、「譲歩の返報性」と「知覚のコントラスト効果」が同時に働くことによって、要求が通りやすくなります。
これらの効果の組み合わせは、じつに驚異的に働きます。
デメリットは?
はじめの要求が明らかに大きすぎて、こちらの意図がバレてしまう場合などを除いて、たいていの場合は、不思議なことに、この「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック(譲歩の返報性 ☓ 知覚のコントラスト効果)」を使った場合、デメリットというものがありません。
それどころか、「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」を使った場合、相手は、より交渉の結果を遂行たり、将来的に、同じような要求に応じてもらいやすくなることも分かっています。
それは、この「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックが、交渉過程において、「責任感」と「満足感」を引き出すからだと考えられています。
責任感
「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」を利用することによって、相手は、「その交渉の最終的な合意を、自分が取りまとめた」と感じ、その交渉に強い責任を感じるようになり、交渉の結果を積極的に遂行するようになります。
満足感
「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」を利用することによって、相手は、「その交渉を、自分が主導して有利な条件に変えた」と感じ、その交渉に満足感を感じるようになり、次回も、同様の要求に応じやすくなります。
恋愛で使う
「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」を恋愛の場面において使うこともできます。
恋愛の場合も、これまでみてきたように、自分が通したい要求よりも、少し大きな要求を先にしておいてから、本当の要求をすれば、受け入れてもらえる可能性は高くなります。
しかし、たとえ断られることが前提だとしても、いきなり「結婚して!」とか、「泊まりで旅行に行こう!」など、相手が引くような変な要求をしてしまっては、その時点で脈がなくなってしまうかもしれません。
あくまでも、相手を困らせたり、嫌な思いをさずに、断ったことに、多少の罪悪感を抱かせるような要求を、はじめにしましょう。
そのうえで、断られたら、お茶に誘うとか、メールアドレスやSNSアカウントを教えてもらうなど、些細なお願いをすると、相手も、うっかり「OK」してしまうかもしれません。
すくなくとも、いきなり、お茶に誘ったり、メールアドレスやSNSアカウントを教えて!とお願いするよりも、可能性は高くなります。
ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックの注意点
効果抜群の「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」ですが、最後に注意点をまとめておきます。
はじめの要求も、ある程度は現実的に
あまりにも、大きすぎる要求だったり、非現実的な要求だと、疑念を持たれたり、見破らたりしてしまい、相手の「返報性」を呼び起こさないかもしれません。
また、相手を不快にさせたり、迷惑がらせるような要求も、逆効果になりかねないのでやめましょう。
あくまでも、相手が「断ってしまって申し訳ないな…」という、罪悪感のような気持ちにならなくては、「返報性」が働かないので、意味がありません。
断られたら、すかさず次の要求を
「返報性」も、時間的が経つにつれて効果が薄れたり、他の「返報性」によってかき消されてしまいます。
断られたら、すかさず譲歩した、次の要求をしましょう。
相手に「返報性」が働いているうちに、そして、「知覚のコントラスト効果」が働くように、すぐに次の要求をしなければ意味がありません。
2つの要求には関連性が必要
はじめの要求と、断られたあとにする譲歩の要求は、ある程度の関連性も必要です。
たとえば、子供が、「おもちゃ買って!」という要求を断られたあとに、「じゃあ、ジュース買ってよ!」というような状況は、日常的によくあると思いますし、たいていの場合は、言われたほうも「いいよ」となるのではないでしょうか。
しかし、「おもちゃ買って!」が断られたあとに、「じゃあ、あした学校休んでもいい?」と言われても、「はぁ?」となります。
要するに、「それとこれとは話が別でしょ!」という要求を並べてもダメだということです。
まとめ
「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」は、「返報性」を応用したテクニックで、恐ろしいほどの効果を発揮します。
それは、このテクニックには、「譲歩の返報性」と「知覚のコントラスト効果」という、2重の心理的作用が働くためです。
しかも、その結果として、相手の恨みをかうこともありません。
それどこか、相手は、その交渉に対して「責任感」や「満足感」まで感じ、積極的に交渉結果を遂行したり、将来的な交渉にも応じやくなるのです。
このように、効果抜群の「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」ですが、くれぐれも悪用しないようにしてください。
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